いい最期

毎月10日まではレセプト請求業務に追われながら、報告書と計画書の作成も重なり、常に何かに気を焦らせています。

そんな日の夜8時過ぎ。

まだ事務所で残務整理をしながらパソコンとにらめっこ。すると緊急電話が鳴りました。少し緊張感が漂います。

どうしましたか?

90代の女性利用者の妹さんからです。

「あのね、急用じゃないんだけど、今度先生来るときに持ってきてもらおうと思った物があって、今言わないと忘れちゃうから電話しちゃった」

あー、はいはい。わかりました!では先生に伝えておきますね。

緊急じゃなくてホッとし、また業務に戻る。

するとまた10分ほどして、同じ番号から電話が鳴る。

どうしましたか??

「あのね、なんか静かだなぁと思ったら息してないの。でもまだ温かいんだけど…」

電話の向こうで気が動転している様子。

夏頃からあまり良い状態ではないながらも、訪問すると大きな声で、やめてよー!何するのよー!とどんなケアも嫌がっていた方。

でもケアが終わると、ありがとうねってお礼を言ってくださる。

わかりました、すぐ向かいます。先生も呼びますからね。大丈夫ですよ。

先に永本さんに向かってもらい、後からご自宅に伺うと先生も来てくださってました。

ご家族に声をかける。

大変でしたね、だけどお家で最期までいられて良かったね。

先生に「あの顔、見てくださいよ」と言われ、本人さんのところへ行くとまるでスヤスヤ眠っているような穏やかな表情をされている。

それだけで、幸せな最期だったんだなということがわかる。

決して良い状態ではなかったけれど、訪問すると大きな声で童謡を歌ったりしていた。

髪の毛を洗い、用意された衣裳に着替える。なんと真っ黒のファー付きセーターと紫のズボン。この衣裳が似合う人もそうそういないだろう。

昔から薄化粧だったというご家族からの情報を頼りにお化粧をして、仕上げの口紅はご本人が大好きな甥っ子さんにお願いした。

ラジカセで童謡を流して、いつもと変わらず、これまでしてきたケアと同じようにさせていただく。

《いつも》と違うのは、本人さんが「痛いよー!やめてよー!」と声をあげないこと。注)決して痛がらせようとケアしてるわけではないのですよ。

そして、嫌がりながらも最後にありがとうと言ってくださる声が聞けないこと。

お身体を整えて、お疲れさまでした…と声をかける。

いつもそう声をかける。

人が亡くなるのは、人が生まれるのと同じように大変なことだと思う。

だから、本当にお疲れ様でしたって気持ちになる。

人が亡くなるのに、良いも悪いもないのだけれど、でもやはり今日みたいなお見送りはいい最期だなと思うのだ。

介護するのが大変で、もう歳だからいつ逝ってもいいと思ってると来るたび話していた妹さんから、「まだ来年いっぱいは大丈夫だろうって思ってた」と言われズッコケそうになったが、それもまた家族の両側面なんだなと感じた。

寂しくなるわ。

ご家族のこれまでの長い歴史は、私たちが知らないことの方が多い。

どうぞ昔むかしのその昔までさかのぼって、懐かしみ、心ゆくまで思い出話をしながら本人さんと一緒にいてさしあげてくださいませ。

ご家族の大切な時間に私たちを混ぜていただいて、本当にありがとうございました😊

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